Wantedly炎上事件から考えるDMCAの悪用と問題点

Wantedly炎上事件から考えるDMCAの悪用と問題点

2017年8月、上場直前期にあったウォンテッドリー社がDMCAを悪用した風評削除を行っていたとして炎上、社会問題となった事件は記憶に新しい方も多いかと思います。

当時の報道を振り返ってみると、DMCAという聞きなれない言葉が独り歩きしている感もあり、DMCA自体の認知拡大にこそつながったものの、その実なにが問題で、なにが不正であったのかをきちんとかみ砕いて報じていたメディアは少なかったように思います。

ウォンテッドリー炎上事件では、いったいなにが問題だったのでしょうか。
この事件はウェブ上の著作権問題やDMCAの本質を理解するにはいいケーススタディかと思われますので、本稿ではもう少し掘り下げて見ていきたいと思います。

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ウォンテッドリー炎上の経緯

ウォンテッドリー炎上の経緯

求人情報サービス「Wantedly」を運営するウォンテッドリー社のIPOを批判したブログ記事がGoogle検索から削除されたのは2017年8月25日のことでした。

当該のブログが削除されたのは、上場直前期にあったウォンテッドリーが、DMCAに基づく著作権侵害をGoogleに訴えたためで、記事の中にCEOの仲睦子氏の顔写真が無断で使われているというのが、その申し立ての理由とされていました。

対象の記事はその後検索結果へ復帰を果たしているため、現在ではだれでも見ることができるのですが、使用された仲氏の写真はたった1枚にすぎません。
これは前稿で説明した通り、著作権法上の引用の範囲内と見なされる可能性が高く、通常であれば削除の対象とはならないはずです。そのうえ、同様の写真を無断引用しているほかのサイトには削除依頼をされていないことなどから、ウォンテッドリーはDMCAを悪用して、自社に都合の悪い記事のみを意図的に検索結果から排除したのではないかとの憶測を広げ、ツイッターなどを通じて炎上したのです。

この事件をめぐる議論の焦点はいくつか挙げられると思いますが、まず第一に、次のような疑問点が沸き上がってきます。
つまりGoogleはなぜ、画像一点のみの引用で当該記事を削除したのでしょうか。

前稿ではGoogleへのDMCA申請は放置されるケースが多いと書きましたが、これは実を言うと正確な表現ではありません。削除されるケース、放置されるケースがともに散見され、一貫した基準を見出しにくい状況にあるといったほうがより本質を突いた表現かと思われます。
GoogleへのDMCA申請は年々その数を増やしており、月間7500万件に及ぶとされています
(出典:https://torrentfreak.com/google-asked-to-remove-100000-pirate-links-every-hour-160306/)

これは2016年2月の実績数字のため、下図の通り年々増加傾向にある現状では、実に月間1億件に迫る申請数があると推測できます

(図はGoogleに寄せられた申請数推移)

Googleを擁護するわけではありませんが、これだけの申請を抱えていれば、正確な処理は望むべくもありません。一律たいした審査もなく削除されるか、または放置されるか、どちらかとなってしまうのもむべなるかなといったところでしょう。本申請についても、Googleの対応は揺れに揺れ、申し立てに対してまずは削除対応をとったものの、その後の社会問題化を受け、2017年9月初頭には検索結果に復帰していることが確認されました。

ブラックハットとホワイトハットの境界

ブラックハットとホワイトハットの境界

ウォンテッドリーが自社に都合の悪い記事を削除する際にDMCAを悪用できたのも、このようなDMCA申請の管理体制の不備を突くことができたからです。

前稿で見てきた通り、ただでさえ著作権という扱いの難しい問題であることに加え、これだけの申請数を抱えていれば処理能力に限界を迎えることは目に見えており、ウォンテッドリーはまさにその盲点を突いたのです。

実はこのようなDMCAを悪用した逆SEO(検索結果からの排除)は後を絶たないのが現状です。

これまで報告されてきただけでもDYM社やEPARK歯科などのネット関連業を中心に数多くの報告事例がありますが、これは明確にブラックハット的手法であるとして多くの批判の的となってきました。
もちろん我々も誹謗中傷や風評被害対策を行っている手前、いわゆる逆SEO対策を多く手掛けてきており、その手法のどこまでがブラックでどこからがホワイトなのか、明確な線引きは難しいというのが正直なところです。しかしながら、DMCAを悪用した逆SEO対策は、その削除基準が明確でない現状では、悪質なブラックハット的手法であると断言できます。

それはなぜでしょうか。
逆SEOの手法は実にバリエーションに富んでおり、例えば、不都合なサイトを海外ハッカーに依頼して物理的に破壊してしまうアウトな手法(これは不正アクセス禁止法違反で刑事案件です)から、ブランディングのための応援サイトを丁寧に作り、公式サイトの周囲を固めていくオーソドックスな手法まで、実にさまざまです。

DMCAの悪用がクラッキングほどではないにせよ、明確なブラックハットであると言われる所以は、それがウェブの著作権を守る仕組みの陥穽を突き、本来ならウェブ上に存在してしかるべき情報を、自社や個人にとって都合が悪いというだけで隠蔽をしてしまう、そのモラルを欠いた意図にあります。確かにこの行為を罰する法律は存在せず、法律的には逸脱した行為ではないのかもしれません。しかし、これらの行為を許してしまえば、ちょっとした操作やテクニックで、不都合な情報を削除できてしまうことになり、それは必要な情報を適切に得たいと考える情報社会にとって脅威でしかありません。ましてや、上場を控えた社会の公器たる企業が堂々とやるべき行為でないということは言うまでもないでしょう。

ウォンテッドリーの事件以降、GoogleのDMCA申請への削除対応が鈍化し、正しいと思われる申請までもが放置されるケースが散見されるようになったような気がしています。それはこういったブラックハット的手法が蔓延していることと無関係ではありえないのです。

IPOと逆SEOの深い関係

IPOと逆SEOの深い関係

ウォンテッドリーは事件の1ヵ月後、2018年9月にマザーズ上場を果たしました。
そもそも、上場を控えてコンプライアンスに対する投資家の目が厳しくなっている時期に、多大なリスクを背負ってまでこのような手法を用いて記事を隠蔽せねばならなかったのはなぜでしょうか。

これが本事件にまつわる第二の疑問です。
そこにはIPOと逆SEOの切っても切れない関係があります。
IPOが近づくと、東証などの証券取引所が上場適格性を満たしているかどうかを審査します。この審査は証取によって厳格さに差があるようですが、格が上の取引所であればあるほど厳しくなるようです。例えば東証ではウェブ上で交わされる評判も審査対象となり、個別のサイトに書かれた噂までもが細かくチェックされると言われています。なぜなら一旦上場すれば、これらのウェブ上の噂は一般投資家の目にも触れやすくなり、上場後の株価の変動にも極めて大きな影響を与えうるからです。

IPOを目指す多くの企業が、上場直前期に慌ててウェブ風評対策を始めるのはそのためです。しかし、直前になって慌てて対策を始めても、急激にウェブの評判をよくする革新的な方法などありません。普段から評判管理を徹底し、きめ細かく対応していなければもはや手遅れなのです。上場直前になって都合の悪いブログを発見し、慌てて対処しようとした焦りが、ウォンテッドリー炎上事件を引き起こしたと言っても過言ではないでしょう。

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コンプライアンスに則った逆SEOを選びましょう

この事件の余波は上場後も続き、ウォンテッドリーの株価は上場後も低迷を続けました。上場審査通過と、上場後の投資家へのイメージアップのために不都合な記事の削除申請を行ったことを思えば、随分と皮肉な結果を生んだものです。

不都合な情報はむやみに隠すと逆に増えてしまうという現象は、いわゆる「ストライサンド効果」と呼ばれ、以前より多くの炎上事件を通じて指摘されていました。今回の事件はその典型事例として記憶されることになるでしょう。不正に情報隠蔽を行えば、それを指摘されることで逆に衆目を集め、隠そうとした情報はより一層広く拡散してしまうのです。

このように、ブラックハット的手法を用いた逆SEO対策は、一企業にとって致命的な結果を招くことがあります。とりわけ、社会の公器としてIPOを目指したいというのであれば、普段からコンプライアンスに則ったブランディングと評判管理を、地道に続けていくしかないのです。ウォンテッドリー炎上事件は、これからIPOを目指す企業にとって大きな教訓として語り継がれることになるでしょう。

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